底地(借地人に貸している土地)は、地代収入が少ない割に固定資産税や相続税の負担が重いうえ、借地人との関係維持の負担がある、共有になっていて管理が面倒だ、といった事情から「手放したい」と考える地主の方が少なくありません。ところが、いざ売ろうとすると「買い手がつかない」「驚くほど安い値段しかつかない」という現実に直面します。
地代の値上げや契約更新をめぐって借地人と揉めていた場合でも、弁護士に相談すれば、法的な争いそのものにはやがて決着がつきます。しかし、それだけで話は終わりません。地主がいざ底地を手放そうとすると、法律問題とは別の壁にぶつかります。
本記事では、不動産コンサルティングの立場から、底地の売却に特有のハードル(買い手の少なさ・利回り・評価と実勢のギャップ)を整理し、弁護士と不動産会社の連携による出口の作り方を解説します。
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法律上のもめごとが片づいても、底地は売れない
法律上のもめごとの決着は、地主と借地人のどちらにどんな権利があるかを確定させる手続きにすぎず、その土地を市場で買ってくれる相手を見つけ、値段をつけてもらう作業とは別物です。法律上の決着がついたことと、実際に希望している価格で売れることの間には、もう一段のハードルがあります。

権利関係が固まっても、底地は「借地人付き」のまま
たとえ判決や和解で地代や更新の条件が定まったとしても、土地の中身自体は変わりません。地主が持つのは底地(借地人に貸している部分の所有権)、借地人が持つのは借地権(他人の土地を借りて建物を持つ権利)というように、一つの土地が二つの権利に分かれた状態は解消されないままです。
買う側からすれば、いつまで住み続けるか分からない借地人が乗った土地を引き受けることに変わりはなく、二の足を踏むことがほとんどでしょう。もめごとをこじらせたまま放置すると相続などで権利関係がより複雑になり、買い手の候補者はさらに少なくなっていきます。
法律上のもめごとの解決は、底地を現金化するための準備段階にすぎないと捉えておく必要があります。
底地に固有の「売りにくさ」の正体
底地に固有の売りにくさは、次のように整理できます。
● 借地人がいる(権利者が複数いる)ので所有者であっても自由に使えない
● 収益が地代に限られ、利回りが著しく低い
こうした制約を引き受けられる買い手は限られます。
さらに、買い手の少なさだけでなく、次の2点も底地の売却を成立させるハードルになります。
● 底地そのものが共有になっていることが多く、売却に共有者全員の同意が必要になる
● 税金計算上の評価額と実際に売れる価格が大きく食い違う(売主と買主の認識に差が生まれやすい)
以下で、底地を売るときのハードルについて具体的に解説します。
底地を売るときの壁 ── 買い手の少なさと未整理の問題
底地の売却で最初に立ちはだかるのは、買い手の少なさです。そして、借地人との間に残る未整理の問題が、数少ない買い手が提示する価格をさらに引き下げます。
底地は「自由に使えない・利回りが著しく低い」ため買い手が限られる
底地は借地人が建物を建てて使っている土地であり、所有者である地主も自由に使えません。得られる収益は地代に限られ、著しく利回りを目的に底地を購入する買い手はいないでしょう。
第三者(投資家)への売却は借地人の承諾なしに可能ですが、こうした制約を引き受けられる買い手は限られ、底地単独の売却価格は更地価格の1〜2割程度にとどまる例も珍しくありません。
未収の地代・更新料・境界未確定はディスカウント要因
地代の滞納、更新料や承諾料の未収、隣地との境界が確定していないといった未整理の問題は、いずれも査定を引き下げる要因になります。
逆にいえば、もめごとを解決する過程でこれらを合意書や和解条項の形で整理しておくことが、後の売却価格に効いてきます。弁護士が紛争処理の段階でどこまで論点を拾っておくかが、売却局面での価格を左右するケースもあるのです。
底地は共有になっているケースが多く、難易度はさらに上がる
ここまで説明したように、底地の売却は所有者が1人の場合でも簡単ではありません。しかし、もめている底地については、底地が共有になっているケースがほとんどです。長く貸し続けてきた土地であればあるほど相続を経ており、兄弟やその子どもたちへと持分が分かれているのが実情です。
共有になると、何をするかによって必要な同意の範囲が変わります。地代の増額を請求したり、滞納を理由に契約を解除したりといった行為は、持分価格の過半数の同意があれば進められます(民法252条1項)。ところが底地そのものを売るとなると、共有者全員の同意が必要です(民法251条1項)。一人でも反対する共有者がいれば、あるいは連絡が取れない共有者がいるだけで、売却の話は止まってしまいます。
買主の側から見れば、借地人に加えて複数の地主を相手にすることになり、ますます手を出しにくい物件に映ります。借地人との関係を整理できても、地主側の足並みがそろわなければ現金化までたどり着けないわけです。共有が絡む場合の解消方法については、共有不動産を扱った記事で詳しく解説しています。

不動産の価格は一つではない ── 「一物多価」とは
底地の価格を考えるうえで、ぜひ知っておいていただきたいのが「一物多価」という言葉です。一つの土地に複数の価格が存在するという、日本の不動産価格の構造を指します。
底地の「評価は高いのに安くしか売れない」という問題は、この構造を知らないと理解できません。
公的な価格だけで4つある

日本の土地には、公的な価格だけで4つあります。
● 国土交通省が公表する地価公示価格(毎年1月1日時点)
● 都道府県が調査する基準地価(7月1日時点)
● 国税庁が相続税・贈与税の計算用に定める相続税路線価
● 市町村の固定資産税路線価に基づく固定資産税評価額
路線価は地価公示価格の8割程度、固定資産税評価額は7割程度を目安に設定されています。これに実勢価格(実際の取引価格)と不動産鑑定評価額を加えて、「一物四価」あるいは「五価」「六価」とも呼ばれます。
ここで重要なのは、相続税の計算に使われる路線価が、実勢価格より低めに設定されていることです。実務では、実勢価格が路線価水準の1.5倍程度になる例も見られます。どの価格を基準に据えるかで、土地の値打ちの見え方はまったく変わってしまうわけです。
「相場」も絶対ではない ── 最後は個別の事情で決まる
もう一つ押さえておきたいのは、「相場」とは周辺の複数の取引事例から類推できる金額に過ぎないということです。
不動産は株式のように日々の時価を確認できず、最終的な価格は売主・買主の事情や、間口・形状・権利関係といった物件の個別性を反映して決まります。底地のように権利関係にクセのある不動産ほど個別性の影響は大きく、「評価上の価格」と「実際に売れる価格」の差が開きやすいといえます。
「評価は高いのに、安くしか売れない」── 相続税評価と実勢のギャップ
底地の相続税評価額は、路線価に底地割合(土地全体の価値から借地権の割合を差し引いた割合)を掛けて機械的に計算されます。ところが、前述のとおり底地の実勢価格は更地価格の1〜2割程度にとどまることが多く、評価額のほうが実際の売却価格を上回る逆転現象が起こりがちです。
このギャップが最も深刻になるのが、相続税の納税資金を底地の売却で用意しようとする場面です。評価額を前提に納税計画を立てていたのに、実際に売ってみると必要な金額に届かないという事態が起こり得ます。なお、相続税を土地そのもので納める物納という制度もありますが、地代の滞納や境界未確定といった問題を抱えた底地は要件を満たしにくく、あてにできないケースが多いのが実情です。
納税資金の準備には、納税期限から逆算した売却計画と、実勢ベースでの価格把握が欠かせません。
壁を越える出口の作り方 ── 権利を一本化する4つの選択肢
こうした壁を乗り越えるカギは、底地と借地権に分かれた権利を一つにまとめ、完全所有権(借地権の付いていない普通の土地)へと近づけることにあります。
権利がシンプルな土地であるほど買い手の対象は広がり、地代収入だけでは望めない市場価格での売却が現実味を帯びてきます。地主側から検討できる主な選択肢は4つです。
なお、底地が共有になっている場合は、以下のいずれの方法を選ぶとしても、前提として共有者全員の同意が必要になります。
まず検討したいのは、借地人への売却・借地権の買い取り
底地を最も早く完全所有権化できるのは、借地人とのやり取りです。借地人に底地を買い取ってもらえれば地主はその場で現金化でき、借地人は土地と建物を名実ともに自分のものにできます。反対に、地主の側が借地人から借地権を買い戻すという道もあり、実現すれば土地は更地として自由に活用・売却できる状態に戻るでしょう。
買主・売主があらかじめ決まっているため仲介の手間がかからず、双方に利点があれば話は早く進みます。ただし価格の基準をどこに置くかで折り合いがつきにくいのが実情です。路線価を使うのか、実勢価格に近い水準を使うのかで、提示額は大きく変わってきます。
借地人と足並みをそろえ、土地をまとめて売る
地主と借地人がタイミングを合わせられるなら、底地と借地権をひとまとめにして第三者へ売却する方法も検討に値します。分かれていた権利が一つになった状態で売りに出せるため、一般の宅地と変わらない土俵で買い手を探すことができ、市場価格に近づけやすくなります。
代金の分配は、路線価図が示す借地権割合を目安に話し合うのが通例です。とはいえ、双方の売却意思とタイミングをそろえたうえで、底地と借地権付き建物という二本の契約を一体として組み立てる必要があり、実務上の手間は決して小さくありません。専門家の関与なしに進めるのは現実的ではないでしょう。
一部を交換し合い、それぞれが完全な土地を持つ
底地と借地権の一部同士を交換し、地主・借地人がそれぞれ独立した完全所有権の土地を持つという選択肢もあります。要件を満たせば固定資産の交換特例(所得税法58条)が使え、譲渡所得への課税を先送りにできるうえ、以降は地代や更新料のやり取りそのものが不要になります。
ただし、よく紹介される手法である一方、実際に成立する例は多くありません。分筆後の土地が狭くいびつになる、接道条件を満たせない、建物が分割ラインをまたいでしまう、特例の要件(価格差が高いほうの20%以内など)を満たせないなど、条件が整わないケースのほうが目立つためです。選択肢の一つとして頭には入れつつ、過度な期待は禁物といえるでしょう。
折り合いがつかなければ、買取業者に任せる
借地人との交渉がまとまらない、あるいは相続税の納税期限が迫っていて悠長に構えていられないという場合には、買取業者への売却が現実的な出口になります。個人間の売買よりも価格は下がる傾向にあるものの、借地人との交渉という最も骨の折れる部分を丸ごと引き受けてもらえる安心感があり、決済までのスピードが速いのも特徴です。
ここで問題になるのが、そもそも底地を買い取れる業者自体が多くないという事実です。大手はどうしても権利関係の整った「きれいな土地」を優先しがちで、底地のように手間のかかる物件には及び腰になります。共有になっている底地の持分だけを買い取れる業者となると、さらに数は限定的です。手放したい底地が実際に現金へ変わるかどうかは、こうした物件を積極的に引き受ける買主のネットワークを持つ相手を見つけられるかどうかにかかっています。
弁護士と不動産会社が組むことで、なぜ売却が現実的になるか
底地の現金化がうまくいくかどうかは、権利をめぐる法的な処理と、価格をどう成立させ誰に売るかという市場側の動きが、どれだけかみ合うかで決まります。この二つの専門性を弁護士と不動産会社で分担することが、底地の売却を現実にする鍵となるのです。

弁護士は権利の整理を、不動産会社は評価と買主探しを担当する
弁護士の役割は、借地人とのもめごとの法的な処理、地代や更新料をめぐる交渉といった法律事務です。不動産会社の役割は、路線価と実勢価格という複数のものさしを踏まえた評価、借地人への働きかけ方を含めた売却シナリオの組み立て、そして独自のネットワークを使った買主探しにあります。それぞれが自分の専門領域に集中しながら一つの計画を共有することで、法律上の正しさだけでなく、実際に市場で成立する売却へとつなげられます(借地人側から見た売却の壁については、借地権を扱った記事で解説しています)。
「もめごとが終わってから」では遅いことがある
不動産会社への相談は、もめごとが片づいたあとに始めるものと思われがちですが、それでは手遅れになる場合があります。和解の条件に未収の地代や境界の整理をどこまで盛り込むか、売却時にどの価格を基準にするか、相続税の納税期限までにどう間に合わせるかといった判断は、もめごとを処理している最中にこそ効いてくるからです。権利関係の整理を進める段階から出口(誰に、いくらで売るか)を並行して考えておくことで、実際に底地を売却できるかは大きく変わってきます。
当社は借地権・底地・共有といった、権利関係が複雑な不動産の解決を専門としており、大手が敬遠しがちな物件でも買主を確保できるネットワークを持っています。弁護士の先生方と連携した解決の実績も積み重ねてまいりました。

まとめ|地主の手取りを最大化する鍵は「評価」と「買主」にある
底地は、借地人とのもめごとに法的な決着がついた後も、買い手の少なさ、地代だけに頼る低い利回り、評価額と実勢価格のギャップという、この土地に特有の壁が残り続けます。だからこそ、弁護士による権利面の解決と、不動産会社による適正な評価・売却シナリオの構成・買主の確保を組み合わせることが欠かせません。それが、安値での処分や塩漬け状態を避け、地主の手取りを最大限に引き出す道筋になります。底地の現金化や、相続を見据えた土地の整理でお悩みでしたら、当社へお気軽にご相談ください。