親から受け継いだ借地権付きの家、地代の値上げでもめた末にようやく話がついた土地などの借地権(他人の土地を借りて、その上に建物を持つ権利)は、いざ売ろうとすると「買い手がつかない」「値段がつかない」という壁に直面しがちです。


地代の増減額、契約の更新、立退きといった地主とのもめごとは、弁護士に相談すれば法的には解決へ向かいます。ただ、法的な問題だけを解決しても十分ではないことが多く、特に借地権をお金に換えようとした途端、法律とは別の壁が立ちはだかるケースが少なくありません。
本記事では、不動産コンサルティングの立場から、借地権の売却に特有のハードル(地主の承諾・名義書換料・手取りの計算)をわかりやすく整理し、弁護士と不動産会社の連携によって手取りを最大化する出口の作り方を解説します。
なぜ「もめごとの解決」と「売却」は別の壁なのか
もめごとの解決は、誰にどんな権利があるかを確定させる作業です。一方の売却は、市場で買主を見つけて価格を成立させる行為です。両者は別のプロセスであり、法的に正しい解決ができたとしても、適正な価格で売れるとは限りません。
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もめごとの終結は「売れる状態」を意味しない
判決や和解で権利関係が確定しても、土地そのものは、地主が持つ所有権(底地)と、借地人が持つ借地権とに分かれたままです。借地権の買主から見れば、地主という自分ではコントロールできない相手を抱えた不動産であることに変わりはなく、一般の買主はなかなか手を出せません。
実務の現場では、地主との関係がこじれたままの借地権は、この段階で売却を諦めてしまう方がほとんどです。売却まで進むには、後述する借地非訟という裁判所の手続きが必要になるものの、そこまでやり切るには手間も時間もかかりすぎるためです。法的解決は現金化のスタートラインであって、ゴールではありません。
借地権に固有の「売りにくさ」の正体
売りにくさの要因は、大きく4つに整理できます。
- 譲渡の場面で地主の関与が避けられないこと
- 名義書換料というコストがかかること
- 評価上の価格と実際に売れる価格が食い違いやすいこと
- 買い手が限られていること
なお、借地権を相続などで兄弟姉妹の共有にしている場合は、売却に共有者全員の同意も必要になり、難易度はさらに上がります。以下では、借地権に固有の壁を順に解説します。
借地権を売るときの最大の壁 ── 地主の承諾と借地非訟
借地権(賃借権)は、地主の承諾がなければ売却できません。承諾が得られない場合の受け皿として用意されているのが、借地非訟という手続きです。
耳慣れない言葉ですが「非訟」とは、訴訟のように勝ち負けを判決で決める手続きではなく、裁判所が調整役として関与し「決定」という形式で結論を出す手続きを指します。借地非訟では、売却の許可や承諾料の金額などが、当事者の言い分と専門家の意見を踏まえて裁判所の決定で定められます。

借地権の売却には地主の承諾が必要(民法612条1項)
土地を借りる権利(賃借権)は、貸主である地主の承諾を得なければ、他人に売ったり又貸ししたりできません。承諾のないまま売却すると、地主から借地契約そのものを解除される原因になり得ます。
現在流通している借地権の多くはこの賃借権であり、借地権付き建物を売る場面では、まず地主の承諾をどう取り付けるかが最初の関門になります。
承諾が得られないときは裁判所へ ── 借地非訟(借地借家法19条)
地主がどうしても承諾しない場合、借地人は裁判所に「承諾に代わる許可」を申し立てられます(借地借家法19条1項)。第三者に売っても地主に不利益がないと認められるときは、承諾料の支払いを条件として、裁判所が地主の承諾の代わりに許可を出してくれる仕組みです。
申立てには、買主の候補が決まっていること、借地の上に建物が建っていることが必要です。承諾料や借地権の価格については、不動産鑑定士などの専門家で構成される鑑定委員会が意見を述べ、裁判所はこれを踏まえて決定を出します。
もっとも、借地非訟まで進めば高く売れるという話ではありません。もめごとを抱えた借地権を一般の方はまず買いませんし、買取業者も手間を嫌って敬遠しがちです。よほど立地のよい土地でなければ、非訟を経ても買い手探しは簡単ではないというのが実情です。だからこそ、手続きと並行して買い手のあてを確保しておくことが重要になります。
地主が「自分が買い取る」と言える介入権(借地借家法19条3項)
借地非訟には、知っておくべきリスクもあります。申立てがあった場合、地主は裁判所が定める期間内に、「第三者に売るくらいなら自分が買い取る」と申し立てられるためです。これを介入権と呼びます。
介入権が行使されると、裁判所が定める対価で地主への売却が命じられるため、当初予定していた買主への売却が実現しない可能性を織り込んでおく必要があります。
競売で借地権付き建物を取得した場合の特則(借地借家法20条)
競売や公売で借地権付き建物を買い受けた人にも、承諾に代わる許可の制度があります(借地借家法20条)。通常の売却と異なり、建物代金の支払い後2か月以内に申し立てるという事後型の手続きです。期間を過ぎると申立てはできなくなるため、競落が絡む案件では特に注意が必要でしょう。
見落とされがちなコスト ── 名義書換料(譲渡承諾料)
手取りを計算するうえで見落とされやすいのが、名義書換料(譲渡承諾料)です。地主の承諾と引き換えに支払うお金であり、売却価格から直接差し引かれるため、早い段階から織り込んでおかなければなりません。
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名義書換料とは・相場の目安
名義書換料とは、地主の承諾(または裁判所の許可)と引き換えに支払うお金です。借地権の売却では、一般に借地権価格の10%程度が目安といわれます。
ただし、この目安がそのまま通用するとは限りません。相場はあくまで出発点に過ぎず、地域性や借地の経過、事案の個別事情によって変動すると考えるべきでしょう。
さらに、裁判所を通さない交渉では、「何%か」の前にもう一つ争点があります。承諾料のベースとなる土地の価格を、そもそもいくらと見るかという問題です。実は不動産の価格には、税金の計算に使う路線価や実際の取引価格(実勢価格)など複数の「ものさし」があり、路線価は実勢価格より低めに設定されています。どちらを基準にするかで承諾料の金額は大きく変わるため、交渉の入口から価格の根拠を整理しておくことが重要です(不動産価格の仕組みは、底地編の記事で詳しく解説します)。
承諾料は売却以外の場面でも発生しうる
承諾料が問題になるのは売却のときだけではありません。建物の増改築、木造から鉄骨造への建替えといった借地条件の変更などでも、承諾料の支払いが慣行化しています。売却の前提として建替えや条件変更が絡む案件では、複数の承諾料が積み上がり、想定していた手取りを圧迫することがあります。
手取りは「売却価格−承諾料−税金」で考える
最終的に手元に残る金額は、売却価格そのものではなく、承諾料と税金を差し引いた後の手取り額です。売却益には譲渡所得税がかかり、所有期間が5年を超える場合の税率は20.315%となります。
ここで注意したいのが、取得費(その借地権をいくらで手に入れたか)の問題です。借地権は先代から受け継いだものが多く、取得価格が分からないケースがほとんどを占めます。取得費が不明な場合、税務上は売却価格の5%を取得費とみなす「概算取得費」で計算するため、売却価格のおよそ95%が利益として課税されます。たとえば3,000万円で売れた場合、税金はおよそ580万円に上る計算です。手取りベースの見通しを早めに共有しておくと、「思ったより残らない」という後悔を防げます。
壁を越える出口の作り方 ── 3つの選択肢
ここまでの壁を越える共通の考え方は、地主と借地人に分かれた権利を一本化し、完全所有権(借地権の付いていない普通の土地)に近づけることです。普通の土地として売れれば買い手の裾野が広がり、市場価格での売却が視野に入ります。借地人側の主な選択肢は3つあります。
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地主との間で売買する(借地権を買い取ってもらう/底地を買い取る)
一つ目は、地主との直接の売買です。地主に借地権を買い取ってもらえば、借地人は現金化でき、地主は土地を更地に戻せます。逆に借地人が底地(土地の所有権)を買い取れば、土地も建物も自分のものになり、普通の不動産として自由に売却できるようになります。
第三者を探す必要がなく、双方にメリットがあれば成立しやすい方法です。一方で、買い手と売り手が最初から決まっている特殊な取引のため、価格の折り合いがつきにくいという難点があります。ここでも、どの価格を基準に交渉するかという「ものさし」の問題が顔を出します。
地主と協力して「同時売却」する
二つ目は、地主と協力し、底地と借地権をセットにして一つの完全な土地として第三者に売る方法です。一般の宅地と同じ土俵で買い手を募れるため、市場価格に近い水準での売却が期待できます。
売却代金の分け方は、路線価図に示された借地権割合(その土地の価値のうち借地権が占める割合の目安)を基準に話し合うのが実務の出発点です。ただし、地主と借地人の売却意思とタイミングが一致することが前提であり、底地の契約と借地権付き建物の契約を一体として組む必要があるなど、契約の実務は複雑になります。専門家の関与が事実上不可欠な方法といえるでしょう。
専門業者に買い取ってもらう
三つ目は、買取業者への売却です。地主との交渉が難しい場合や、早く現金化したい場合の選択肢になります。価格は当事者間の売買より下がりやすいものの、地主との交渉ごと引き受けてもらえる点が利点です。また、一般の買主にありがちな「住宅ローンの審査に通らず契約が白紙になる」というリスクを避け、確実に現金化できる点も大きなメリットといえます。
注意したいのは、買い手の層の薄さです。大手不動産会社は権利関係が整理された「きれいな土地」を中心に扱っており、借地権のように手のかかる物件を買い取れる業者はかなり限られます。だからこそ、こうした不動産を引き受けられる買主のネットワークを持っているかどうかが、売却の価格とスピードを大きく左右します。
弁護士と不動産会社の連携で手取りを最大化する
借地権の現金化は、法的な権利の処理と、価格・買主という市場の問題が絡み合う領域です。だからこそ、弁護士と不動産会社の分業が、そのまま手取りに反映されます。

法的解決(弁護士)と出口確保(不動産会社)の分業
弁護士は、もめごとの法的処理、借地非訟、承諾をめぐる交渉といった法律事務を担います。不動産会社は、複数の価格基準を踏まえた評価、承諾交渉を見据えたシナリオの構成、そしてネットワークを活かした買主の確保を担当します。役割を分けつつ一つのシナリオを共有し、法的に正しいだけでなく市場で実際に売れる解決に近づけるのが、この分業の狙いです。
もめごとの解決の「次」を見据えた連携のタイミング
連携は、もめごとが終わってから始めるのでは遅い場合があります。和解の内容に承諾の条件を盛り込めるか、承諾料のベース価格をどう整理するか、介入権のリスクをどう織り込むかといった紛争処理の段階の判断が、後の売却価格に直結するためです。解決の道筋を描く段階から出口(売却先・価格)を見据えておくことで、手取りは大きく変わります。
当社は、借地権・底地・共有といった権利関係に課題のある不動産の解決を専門とし、大手が扱いにくい物件の買主確保に強みを持っています。弁護士と連携しての実績も重ねてきました。
まとめ|法的解決と出口確保の組み合わせで借地権の壁を越える
借地権は、地主とのもめごとを法的に解決しても、承諾・名義書換料・価格の食い違い・買い手の少なさという売却特有の壁が残ります。弁護士による法的解決と、不動産会社による評価・承諾交渉のシナリオ・買主確保を組み合わせることで、安売りや塩漬けに至ることなく、手取りを最大化する出口を作れます。借地権の売却や、もめごと解決後の出口にお悩みの際は、ぜひ一度当社へご相談ください。