借地権とは、他人の土地上に建物を所有するために設定される権利であり、取得価格や維持コストの安い資産として注目されることがあります。実際には、さまざまなルールが課されており、状況の複雑化や地主側への強い制約により思いがけないトラブルに発展することもあります。
ここでは、借地権について正しく理解するためのポイントを整理しています。投資先の選定や不動産の利活用において必須の知識です。
借地権とは
借地権とは、他人の土地に建物を所有するため設定される権利です。土地を借りる人(=借地人)は、土地の所有者(=地主)と契約を結び、地代を支払いながらその土地上に建物を建築・所有します。
地上権・賃借権と借地権の違い
土地を借りて利用(=使用収益)するための権利には、地上権と賃借権があります。共通事項として、これらの権利について建物所有を目的とするときは「借地権」と呼ばれ、借地借家法の適用を受けるようになります。
※賃貸物件や借地人の住居・事務所などを建てる目的で設定される借地権の多くは「賃借権」です。
地上権と賃借権の違いは、借りる人の土地に対する支配力にあります。具体的な違いを示すと次のとおりです。
比較項目 | 賃借権 | 地上権 |
権利の種類 | 債権 | 物権 |
譲渡・転貸 | 地主の承諾が必要 | 地主の承諾は不要 |
登記 | 不要 | 必要 |
契約期間 | 基本的に期間の定めあり | 半永久的 |
地代 | 支払わない場合もある(ほとんどの場合は支払う) | 必ず支払う |
借地権の歴史
借地権の歴史は江戸時代に遡りますが、現在の形になったのは明治時代の地租改正以降です。とくに神社仏閣所有地では、もともと農地を小作人に貸していた歴史があり、現在でも定期借地権を活用した事業が活発に行われています。
◾️1923年(大正12年)以降
……関東大震災後の被災者救済のため、バラック建築を借地権として認める法律が制定され、関東地方で借地が急増
◾️1939年(昭和14年)以降
……地代家賃統制令により地代が低く抑えられ、これが現在まで続く地代の低さのもととなる
◾️1941年(昭和16年)以降
……続く1966年(昭和41年)にも行われた借地法改正により、借地人保護が強化される
◾️1992年(平成4年)以降
……借地借家法制定により定期借地権が創設され、地主と借地人の権利バランスが是正される
借地権=投資対象になる?
借地権、とくに旧法借地権は「取得価格・維持コストともに安い投資用資産」として紹介されることがあります。そのため、買い手がつきやすく地主にとっても利益があるものと思われがちですが、その限りではありません。取得価格が低くなる理由、維持コストが安くなる理由を「借地権のルールや注意点」として理解しておく必要があります。
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借地契約における基本的なルール
借地権を取得し維持するためには、地主との契約に基づくさまざまなルールを守らなくてはなりません。借地人や権利を譲受する投資家に影響があるものとして、地代や更新料の支払い義務のほか、譲渡や建替時における地主の承諾が必要になる点が挙げられます。
地代や更新料の支払い義務がある
借地権者は地主に対し「地代」や「更新料」を支払う義務があります。地代は土地を賃借するあいだは継続的に、更新料は賃貸借契約を更新するときに必要です。
◾️地代の相場
……固定資産税と都市計画税の合計額の3倍〜8倍程度(住宅用地では更地価格の1.5%〜3%程度)
◾️更新料の相場
……自用地価格のうち借地権割合(※60%から80%)に相当する価格のうち、5%から10%程度
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譲渡・建替え時に地主の承諾が必要
借地権の譲渡や建物の建替えには地主の事前承諾が必要で、承諾を得る際には承諾料の支払いが一般的です。承諾料については、次のような取扱いがあります。
◾️承諾料の相場
- 譲渡の場合:借地権価格の10%程度
- 建替えの場合:更地価格の3%〜5%程度
◾️無断で譲渡や建替えを行う場合
……契約違反となり、地主から契約解除を求められるリスクが高まります。地主が正当な理由なく承諾を拒否する場合は、借地借家法に基づき裁判所に承諾に代わる許可を求める借地非訟手続きを利用できますが、時間と費用がかかり、当事者の関係悪化は避けられません。
借地人側の契約終了の申込はできない
借地契約を終了させるべき事情が生じたとき、地主側からだと「正当事由」に基づき申し出ることができます。他方で、借地人側から一方的に契約終了を告げることはできません。借地権の前提は「長期間の土地利用」であり、土地利用の安定性のため安易な契約終了は防ぐべきとの考えによるものです。
借地人が契約を終了したい場合は、地主との合意解除が基本です。合意解除では双方の同意が必要で、地主が承諾しない限り借地人は契約から離脱できません。
土地の固定資産税は地主負担となる
建物の税は所有者である借地人が負担するのに対し、借地の固定資産税は地主負担です。この点で、借地人や借地権投資家にとっては「物件の維持コストが減少する」というメリットがある一方で、地主にとっては「少なくとも固定資産税を納付できる程度の収入を確保しなければならない」という問題になります。
なお、当事者の公租公課の負担状況は、借地契約の更新などの際、更新料の判断に影響することがあります。
借地権の種類と存続期間
借地権は、旧借地法のもとで成立した「旧法借地権」と、1992年(平成4年)制定の借地借家法のもとで成立した「新法借地権」に大別されます。
旧法借地権は、契約の巻き直しをしない限り有効であり、現在も数多く存在します。とくに都市部では貴重な投資対象として注目されています。
▼借地権の種類一覧
旧法借地権とは
旧法借地権の最大の特徴は、借地人保護が極めて強い点です。地主からの解約には正当事由が必要で、実質的に半永久的な更新が可能です。同時に、借地人にも、地主都合での契約終了時に「建物買取請求権」があり、建物を時価で買い取るよう求めることができます。
ほかには、建物の構造により存続期間が定められている点も特徴です。木造建物では20年(契約で期間を定めない場合は30年)、鉄筋コンクリート造などの堅固建物では30年(契約で期間を定めない場合は60年)が最低存続期間とされていました。
新法借地権とは(普通借地権・定期借地権)
新法借地権は、旧法の問題点を改善し、地主と借地人の権利バランスを調整した制度です。普通借地権と定期借地権の2種類があり、投資目的や期間に応じて選択できるようになりました。
普通借地権
新法の普通借地権は、旧法借地権の基本的な性質を引き継ぎながら、存続期間を適正化したものです。建物の構造に関係なく一律30年以上の存続期間が設定され、建築技術の向上により木造と堅固建物の耐力差がなくなったのを反映しています。
更新後の期間は1回目が20年以上、2回目以降は10年以上となり、当事者間で合意すればより長期間の設定も可能です。契約方法に制限はなく口頭契約でも有効ですが、トラブル防止のため書面契約が推奨されています。建物買取請求権も継続されており、投資対象としては旧法借地権に近い安定性を持っています。
定期借地権
定期借地権は新法で新設された制度で、契約期間満了時に確実に土地が返還される点が最大の特徴です。一般定期借地権、事業用定期借地権、建物譲渡特約付借地権があり、契約方法や特約が異なります。
借地権のデメリット・リスク
借地権物件には、所有権物件にはない特有のリスクも存在します。地主にとっては土地の利活用及び収益力が著しく制限され、借地人や借地権投資家にとっては資金や経営戦略で注意を強いられる問題があります。借地権の存続期間が長くなれば、権利や人間関係が複雑化し、これがトラブルを招くこともあるでしょう。
地主にとっての借地権のデメリット
所有する土地に借地権が設定されるデメリットは、土地の利活用ばかりか返還請求についても制限され、さらに地代収入もそれほど期待できない点にあります。
土地の自由な利用が制限される
地主にとって借地権設定の最大のデメリットは、自分の所有する土地であっても自由に利用できなくなることです。地主都合での土地返還は正当事由なしだと難しく、返還してもらえる場合でも「建物買取請求権」を行使されてしまう可能性が問題です。
地代収入が著しく低い水準に抑えられる
地主が借地権設定により得られる地代収入は、固定資産税等を基準とした水準が妥当とされているため、著しく低い収入しか得ることができません。借地権が付着している底地を売却しようにも、自由に使用収益できないことから、相場より低い価格となってしまいます。
借地人・借地権投資家にとってのデメリット
借地人や借地権投資家にとってのデメリットは、融資が期待薄のため資金調達が困難であることです。借地運用を開始できても、所有権にはない留意点があるため、難しい判断を強いられます。
ここで解説する要素は、地主と現在の借地人の両方にとって、借地権の売却・利活用による処分をいっそう難しくしていると言わざるを得ません。
融資審査が厳しくなる
借地権付き物件への融資は金融機関にとってリスクが高いため、審査が極めて厳しくなります。担保価値が所有権物件と比較して低く評価され、所有権物件で80%程度の融資が可能なケースでも、借地権付き物件では50%程度に制限されることが一般的です。
地主との良好な関係を構築する必要がある
借地権投資の成功は地主との関係性に大きく左右されるため、信頼関係の構築が極めて重要です。地代の確実な支払いはもちろん、定期的な挨拶や近況報告など、継続的なコミュニケーションを心がける必要があります。契約内容の遵守や事前相談の徹底により、トラブルの未然防止に努めることが大切です。
出口戦略をしっかり立てる必要がある
借地権付き物件の運用では、出口戦略が重要です。最大の課題は「売却時の流動性の低さ」となるでしょう。購入希望者が限定されるため、通常の所有権物件より売却が困難になるのです。また、買い手候補は現金購入者や借地権投資に精通した投資家に限られ、売却価格も市場相場より低くなる傾向があります。
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借地権の存続中に起こるデメリット
借地権の存続期間が長くなると、地主や借地人の相続発生により、人間関係も権利関係が著しく複雑化するリスクがあります。契約当事者の相続人が複数になると、それぞれの立場での意見の統一が困難です。売却の承諾が得られなくなったり、地代改定交渉が長期化したりするなどして、投資戦略の実行に影響が出るかもしれません。
まとめ
借地権(建物所有目的での土地の賃貸借契約で成立する権利)は、そこに課されたルールや制約を十分に理解しなくてはなりません。借地人や投資家にとっては、融資の制約、地主との関係性、相続による権利関係の複雑化などは投資収益性に大きく影響するため、事前の綿密な検討が必要です。一方の地主にとっても、相続や土地を巡る事情の変更に伴い、土地の賃貸が頭の痛い問題となることがあるでしょう。
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