空き家に関係する悩みが広がっている昨今「実家じまい」が話題になっています。問題点を見聞きし、自宅を早々に片付けたくても、思い出が詰まった実家をどうすればよいのか、何から手をつければよいのかわからず、不安を感じている人が多くいるでしょう。
ここでは、高齢の親族が所有する家を整理・処分するときのポイントと、精神的な負担を軽減する方法を解説します。
実家じまいとは
親が施設へ入居したり亡くなったりした後、誰も住む予定のない実家を、家財道具も含めて整理し処分することを「実家じまい」と言います。似た言葉に「家じまい」がありますが、これは所有者が自分で元気なうちに自宅を整理・処分することを指し、誰が・どのタイミングで家を片付けるかという点で異なります。
実家じまいという考え方が広がる背景にあるのは、全国で増加する空き家の問題です。家の所有者の遺族の多くは、自分の生家に思い入れがあることから整理・処分をためらいがちです。このようにして迷っているあいだに生活状況や健康状態に変化が生じて、しだいに処分のための労力を割けなくなります。
さらに手を打たないままでいると、家の価値が老朽化によってどんどん目減りする一方で、維持管理費や固定資産税がかさみ、赤字が拡大してしまいます。やがて維持できなくなった家は放置され、災害による損壊や不法投棄などのリスクが大きくなり、地域に悪影響を及ぼして思わぬタイミングで多額の費用(損害賠償など)を請求される可能性をはらむようになります。
実家じまいでやるべきこと

実家じまいと一言で言っても、その範囲は多岐にわたります。家の中の片付けから始まり、不動産としての家の処分、そして場合によっては、お墓の問題まで関わってきます。これらを計画的に進めることが、スムーズな実家じまいの鍵となります。ここでは、実家じまいで具体的に取り組むべきことを3つのステップに分けて解説します。
室内にあるものの整理
実家じまいの第一歩は、家の中にあるものの整理です。長年暮らした家には、膨大な量の品物が残されていることが少なくありません。効率的に作業を進めるためには、まず整理する部屋の優先順位を決めることが大切です。
基本的には、使用頻度の高いリビングや寝室から手をつけ、最後に物置や押し入れといった普段あまり使わない場所の整理に移ると、生活動線を確保しながら作業を進めやすくなります。
■仏壇や位牌の適切な処分方法
……仏壇や位牌の処分は、とくに慎重に進めたい事柄です。位牌の処分方法としては、お寺や神社で魂抜き・閉眼供養をしてもらったうえでお焚き上げをしてもらう方法や、寺院や霊園に位牌を納めて管理・供養を代行してもらう「永代供養」を依頼する方法があります。
■遺品整理を業者に依頼する
……遺品整理を自分たちで行うのが難しい場合は、専門業者に依頼することも検討しましょう。業者選びでは、遺品整理士などの専門資格を持つスタッフが在籍しているか、料金体系が明確で詳細な見積もりを提示してくれるか、なども確認ポイントです。
■重要書類の保存チェックリスト
……実家の片付けでは、重要な書類を誤って処分してしまわないよう注意が必要です。気をつけたいものとして、不動産の権利証(登記識別情報通知書)、保険証券、年金手帳、預金通帳、有価証券、契約書(賃貸借契約書やローン契約書など)が挙げられます。株主総会議事録や取締役会議事録、決算書といった会社関連の書類は、法律で保存期間が定められているものがあるため、確認が必要です。
空き家の処分や活用
内部の整理が終わった自宅は、利活用の方法を検討しましょう。主な選択肢としては、売却、賃貸、解体があります。それぞれの方法にはメリット・デメリットがあり、家の状況や関係者の希望に合わせて最適な方法を選ぶことが大切です。
処分方法 | 平均期間 | 費用相場 | メリット |
---|---|---|---|
売却 | 3~6か月 | 仲介手数料(売買価格の3%+6万円+消費税など) | 即時に現金化できる可能性がある |
賃貸 | 1~2か月 | リフォーム費用(数十万~数百万円規模も) | 継続的な家賃収入が見込める可能性がある |
解体 | 1~3週間 | 木造の場合、1坪あたり3~5万円程度が目安 | 更地にして管理しやすくなる、売却しやすくなる場合がある |
■売却タイミングの見極め方
……不動産の売却価格は、市場の動向によって変動します。相続した空き家の場合、相続開始から3年以内に売却すると譲渡所得の特別控除を受けられる場合があるため、税制面も考慮してタイミングを検討するとよいでしょう。
■賃貸時のリフォーム費用回収シミュレーション
……実家を賃貸に出す場合、入居者が見つかりやすくするため、また家賃を高く設定するためにリフォームが必要になることがあります。投資対効果や、今後の支出(管理方法やメンテナンスの内容・周期によって変動)を考慮して、リフォームの規模や内容を検討することが重要です。
■更地売却vs現状売却の損益分岐点
……実家を売却する際、建物を解体して更地にしてから売るか、現状のまま売るか悩むことがあります。どちらが良いかは一概には言えません。更地にした方が買い手が見つかりやすい場合もありますが、解体費用がかかります。一方、現状のまま売却すれば解体費用はかかりませんが、買い手が限られたり、売却価格が低くなったりする可能性があります。それぞれの費用と予想売却価格を比較し、どちらが有利になるか、不動産業者とも相談しながら慎重に判断しましょう。
実家じまいを始めるべき2つの兆候

実家じまいを考え始めるきっかけはさまざまで、物理的な距離、経済的な事情、親族間の関係性などが考えられます。ここで紹介するサインがあれば、一度立ち止まって将来のことを考えてみる時期かもしれません。
経済的負担が大きくなった
所有する親族が存命にもかかわらず実家を整理しようとするきっかけの多くは、介護サービスの利用や施設入居が必要となることです。まとまった額の費用をまかなう手段として、住まなくなった家の売却が考えられます。家を残しておくとしても、利活用しないのに維持管理費が継続的にかかるのは問題です。
こうしたケースで注意したいのは、土地の評価額よりも建物の解体費用の方が高くなってしまうケースです。木造家屋の場合、解体費用は1坪あたり3万円から4万円程度が相場とされますが、立地条件や付帯物の状況によってはさらに高額になることもあります。資産価値がマイナスになる前に、早めの判断が求められます。
空き家リスクが顕在化した
しばらく居住者がいない状態で適切に管理されなくなった空き家は、さまざまなリスクを抱えています。たとえば、倒壊の恐れがある、著しく景観を損なっている、などの状態と判断されると、制定された対策法に基づき「特定空家」に指定される可能性があります。特定空家に指定されると、固定資産税の住宅用地特例が解除され、税負担が最大6倍になるうえ、行政代執行による解体とその費用の請求が行われる恐れがあります。
また、老朽化が進んだ家屋は、台風や地震などの自然災害で倒壊したり、外壁材が飛散したりして近隣に被害を及ぼす危険性があります。ネズミや害虫が発生しやすくなったり、不審者が侵入したりするリスクも高まります。万が一、火災が発生した場合でも、空き家であることを理由に火災保険の適用が制限されるケースも考えられます。
実家じまいに対する抵抗感を減らすには

実家じまいは、物理的な作業だけでなく、精神的な負担も伴うものです。特に、親との思い出が詰まった実家を手放すことへの寂しさや、これでよかったのかという後ろめたさを感じる方も少なくありません。こうした抵抗感を少しでも和らげ、前向きに実家じまいを進めるためには、事前の準備や家族間のコミュニケーションが鍵となります。
親が元気なうちにできること
親が元気なうちに実家じまいについて話し合い、準備を始めることは、後の負担を大きく軽減することにつながります。
■思い出の品を整理しておく
……時間があるうちに、親子で一緒に思い出の品を整理しておくことをおすすめします。何を残し、何を処分するのかを一緒に判断することで、後悔のない片付けができます。写真や手紙など、感情が動きやすいものは一度にやろうとせず、数日に分けて少しずつ進めるのがコツです。捨てるか迷うものは、無理に処分せず、デジタルデータ化して残すという方法も検討しましょう。
■エンディングノートを作成する
……エンディングノートは、自分の情報や財産、医療や介護の希望、家族へのメッセージなどを書き留めておくノートです。親にエンディングノートを作成してもらうことで、万が一の際に親の意思を尊重しやすくなります。また、ノートを作成する過程で、親子で将来について話し合う良い機会にもなります。書きやすい項目から少しずつ、今の気持ちを素直に綴ってもらうことが大切です。
■遺言書や民事信託・家族信託を活用する
……財産の相続に関するトラブルを避けるためには、法的な準備も有効です。遺言書を作成しておくことで、相続財産の分配方法を明確にできます。また、近年注目されているのが民事信託(家族信託)です。これは、親が元気なうちに、信頼できる家族に財産の管理・運用を託す契約を結ぶものです。認知症対策や、より柔軟な財産承継の方法として活用できます。遺言書と家族信託では、同じ財産について定めた場合、家族信託の内容が優先される点に注意が必要です。
子どもや孫にできること
実家じまいは、親だけでなく、子や孫にとっても大切なプロセスです。家族みんなで協力し、思い出を共有しながら進めることで、寂しさを乗り越え、新たな絆を育むきっかけにもなります。
■一緒に住んだことがある人を集め、全員で身の回りのもの(または遺品)の整理を進める
……実家に関わりのあった親族や近しい友人が集まり、みんなで一緒に片付けを行うのも一つの方法です。それぞれの思い出の品を手に取り、エピソードを語り合うことで、故人を偲び、感謝の気持ちを共有できます。大切なのは、ものを処分することではなく、思い出を整理し、気持ちに区切りをつけることです。
■写真やビデオをデジタルデータに変換して残すことも考える
……実家にあるたくさんのアルバムやビデオテープは、場所を取るだけでなく、経年劣化も心配です。これらをスキャンしたり、専門業者に依頼したりしてデジタルデータに変換しておけば、省スペースで保管でき、いつでも簡単に見返すことができます[1]。クラウドストレージサービスなどを活用すれば、家族間で共有することも容易です。思い出を新しい形で残すことで、「失う」という感覚を和らげることができるでしょう。
まとめ
実家じまいは、誰もがいつかは直面する可能性のある課題です。思い出の詰まった実家を整理し、処分することは、精神的にも時間的にも大きな負担が伴います。しかし、放置することで生じるリスクや、将来的な負担増を考えれば、適切なタイミングで計画的に進めることが重要です。
ここで紹介した「やるべきこと」や「始めるべき兆候」を参考に、まずは家族で話し合うことから始めてみてはいかがでしょうか。迷ったときは、土地・建物のさまざまな事情と向き合ってきた四谷不動産コンサルティングにご相談ください。古い家・思い入れのある家の未来を考え、整理に向けた複合的なアドバイスを提供しています。