【私道問題】私道の共有・分有でよくあるトラブル4選

【私道問題】私道の共有・分有でよくあるトラブル4選

執筆者:宅地建物取引士 樋口 力敏

執筆者:宅地建物取引士 樋口 力敏

四谷不動産コンサルティング代表
保有資格 / 中小企業診断士・宅地建物取引士

四谷不動産コンサルティング代表
保有資格 / 中小企業診断士・宅地建物取引士

私道の共有・分有でよくあるトラブル4選

戸建て住宅やマンションの前面道路として私道が設置されているケースは少なくありません。しかし、私道は個人や団体が所有する道路であり、その管理や利用に関して様々なトラブルが発生する可能性があります。特に複数の所有者で共有もしくは分有する私道では、修繕費用の負担や工事の承諾など、合意形成が難しい場面に直面することがあります。本記事では、私道の基礎知識から具体的なトラブル事例、予防策まで詳しく解説します。

私道の基礎知識

私道は公道とは異なり、個人や民間企業が所有する道路です。一般に道路として利用されていても、その権利関係や管理責任は公道とは大きく異なります。まずは私道の基本的な特徴を理解しましょう。

私道と公道の違い

私道は個人や団体が所有する道路であり、公道とは性質が大きく異なります。公道は国や地方公共団体が所有・管理し、誰もが自由に通行できる道路です。一方、私道は原則所有者の承諾なく通行や工事はできません。道路の補修や維持管理は所有者の責任で行う必要があり、私道には固定資産税が課されている場合も稀にあります。ただし、建築基準法上の道路として指定されている私道は、原則として通行を制限できないことが定められています。

私道持分とは何か

私道持分とは、共有私道において各所有者が持つ所有権の割合のことです。登記簿上は「共有者持分○分の○」という形で表示され、各共有者は持分に応じて私道を利用する権利を有します。持分に応じて利用するとは、実質的には誰がどれだけ利用したかまでは補足できないため、実務上は他の共有者の権利を侵害しない限り実質自由に使用可能として扱われています。一方で、私道の変更や処分には原則として共有者全員の同意が必要です。

私道の共有形態2つのパターン

私道の共有形態

私道の共有形態は大きく分けて「共同所有型」と「相互持合型」の2種類があります。両者は権利関係や管理方法が異なるため、自身の私道がどちらの形態に該当するか確認しておくことが重要です。

共同所有型私道とは

共同所有型私道は、1つの私道を複数の所有者が持分割合に応じて共有する形態です。いわゆる「共有」です。この形態では、私道の管理や変更に関する意思決定は民法の共有に関する規定に従って行われます。

■共同所有型私道の工事等の取扱い

……現状を維持するだけ(保存行為)であれば単独で可能ですが、現状維持を超える処置(管理行為・変更行為は)にあたっては、ほかの共有者の同意が必要となります。

■共同所有型私道の通行に関する取扱い

……共有者全員が私道全体の権利を持つため、通行には他の共有者の承諾は不要です。

相互持合型私道とは

相互持合型私道は、1つの私道を分筆して各所有者が単独で所有する形態です。いわゆる「分有」です。見た目は1本の道路でも、実際には複数の区画に分かれており、それぞれの区画を各所有者が単独で所有します。昭和の時代に建てられた分譲住宅にはよく見られた形態です。

■相互持合型私道の工事等の取扱い

……この形態では、自分の所有する部分については単独で管理や変更が可能ですが、実態は自分の所有する部分だけで工事が完結することは希有です。また、ほかの所有者の区画を使用して工事する場合には、その所有者の承諾が必要となるのが原則ですが、民法改正によりライフライン設置使用権(令和5年4月以降)が明文化され、以前よりも柔軟な運用が可能となりました。

■相互持合型私道の通行に関する取扱い

……ほかの所有者の土地を通行するには、地役権や通行権などの権利を設定する必要があります。

私道の共有・分有でよくあるトラブル4選

私道の共有・分有では、通行や工事を巡ってトラブルになるケースが多々あり、万一のことがあると解決に時間と労力を要します。ここで、主なトラブル事例を見ていきましょう。

道路の補修や管理方法で合意形成ができない

私道の補修や管理方法を決める際、共有者間で意見が対立するケースが少なくありません。例として、砂利道をアスファルト舗装にする工事について、一部の共有者が費用負担を理由に反対するといった事態が起こり得ます。

通行や掘削工事の承諾が得られない

ライフラインの引き込み工事や建物の建て替えに伴う工事の際、私道の掘削が必要になることがあります。先に述べたライフラン設置使用権の創設によって解決は期待できますが、依然として「ほかの所有者の承諾が得られない」または「法外な承諾料を要求される」といったトラブルが発生しがちです。

共有者が所在不明で意思決定ができない

私道共有における最大の問題です。共有者の中に所在不明者がいると、必要な同意が得られず、私道の管理や変更が滞る事態が起こり得ます。とくに、相続が複数回発生している場合、相続人の所在確認が困難になりやすく、意思決定に支障をきたします。令和5年4月の民法改正により、所在等不明共有者がいる場合の特例が設けられましたが、手続きには一定の時間と費用がかかります。

私道所有者が通行を妨害する

相互持合型私道では、各区画の所有者が自己の所有地を独占的に使用する権利を持ちます。そのため、所有者が自己の区画に車両を駐車したり、通行を物理的に制限したりするケースがあります。通行権が設定されていない場合、ほかの利用者は通行を妨害されても対抗が難しく、日常生活に支障が生じる可能性があります。

私道トラブル予防のためのポイント

私道トラブル予防のために権利者ができること

私道の共有・分有に関するトラブルを未然に防ぐには、事前の準備と関係者間の良好な関係維持が重要です。権利関係の確認から具体的な取り決めの作成、日常的なコミュニケーションまで、予防のための具体的なポイントを解説します。

権利関係の事前確認

私道の権利関係を正確に把握するため、まず登記事項証明書で所有者や持分割合を確認します。共有者全員の連絡先をリスト化し、定期的に更新することも大切です。また、地役権や通行権の設定有無、既存の管理規約や取り決めの内容も確認が必要です。

取り決めの書面化

余り例はなく、またマンションの管理組合のようにとまでは言いませんが、私道の管理や利用に関する基本的なルールを管理規約として文書化することもお勧めできます。規約には、清掃や補修などの日常的な管理方法、費用負担の割合、工事実施時の手続きなどを具体的に記載します。また、共有者間の連絡体制や意思決定の方法も明確に定めておく必要があります。とくに重要な決定事項については、議事録を作成して保管するなど、記録を残す習慣をつけることが望ましいでしょう。

近隣住民との関係維持

私道の管理を円滑に進めるため、定期的な情報共有の場を設けることが重要です。年に数回の清掃活動を共同で実施するなど、共有者同士が顔を合わせる機会を作りましょう。また、新規居住者には私道の利用ルールを丁寧に説明し、理解を得ることが大切です。日頃からのコミュニケーションを通じて、相互理解と協力関係を築いていくことがトラブル予防につながり、本質的な解決策です。

まとめ

私道の共有・分有は、複数の権利者が関わるため、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。特に、管理方法や費用負担をめぐる問題、通行や工事の承諾に関する問題が起きやすい傾向にあります。これらのトラブルを予防するためには、権利関係の確認と取り決めの書面化、そして関係者間の良好なコミュニケーションが重要です。私道に関する法制度も令和5年の民法改正で一部変更されており、必要に応じて専門家に相談することをお勧めします。

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記事を書いた人

執筆者:宅地建物取引士 樋口 力敏

四谷不動産コンサルティング代表

樋口 力敏

1972年5月生まれ。1997年慶應義塾大学経済学部卒、住友商事株式会社財務部等を経て、2000年にアクセンチュアのパートナーらとコンサルティング会社設立。2008年に当社設立、代表取締役に就任。最近では都内の大地主のコンサルティングを約4年経験。借地権問題、相続問題を含む困難な不動産問題を多く解決してきた

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