借地を利用したアパート経営は多数行われていますが、時間経過とともにさまざまな課題が持ち上がります。主な問題点を整理すると、増改築や売却の困難さ、地代改定の可能性、転貸・売却などが挙げられます。本記事では、借地権の基礎知識と共に、アパート経営でよく見られる課題について整理します。
借地権の基礎知識
借地権アパートを検討する前に、まずは借地権の基本的な仕組みを理解しましょう。
借地権アパートの基本的な仕組み
借地権とは、他人の土地に建物を所有するための権利です。土地所有者(地主)と借地人が契約を結び、借地人は地代を支払いながら土地を利用します。
■基本的な契約関係
- 借地権は、土地の賃借権または地上権として設定する
- 地主に地代を支払い、その土地上に建物を所有する
- 契約期間は法律で最低期間が定められている
- 契約時には「権利金」、譲渡および建替えには「承諾料」の授受をする
旧法借地権と新法借地権の違い
借地権には種類があり、大きくは平成4年7月以前の「旧法借地権」と平成4年8月以降の「新法借地権」に分かれます。旧法借地権の契約は現在でも多数残っており、トラブルが多いのは旧法借地権であるため、今回は旧法借地権について説明します。
■旧法借地権の特徴
- 契約期間:堅固建物(RC造等)は30年以上、非堅固建物(木造等)は20年以上
- 地主側からの更新拒絶は「正当な事由」があれば可能(定義はあいまい)
- 建物が朽廃すると借地権は消滅する
- 全体的に借地人保護が強い
借地を利用したアパート経営の実務上の課題
借地権付きアパートの経営では、健全な経営のために欠かせない融資や建替えに関して課題があります。すでに説明したように、地主との関係や、契約内容、地代改定の可能性に注意しなければなりません。具体的には、次のようなことが言えます。
増改築(建替え)が難しい
アパートの建替えには地主の承諾が必要ですが、簡単には了承してくれません。建替えを行うと契約期間が延長され、無性に近い形で返地してほしい地主にとって「土地がいつまで経っても返ってこない」という困った事態を招きかねないためです。
地代改定(増額)の可能性がある
契約が継続している借地には、地代収入が少なく、地主が増額を求めてくるケースが多く見られます。地代が増額した場合、借地人の手元に残るアパート経営の利益が少なくなるため、不都合となります。増額の要求があっても地代は簡単に増やせるものではありませんが、交渉や裁判手続で地主との関係が悪化し、譲渡・建替えのときなどの承諾が取りづらくなる恐れがあります。
建替え、譲渡時には借家人との立退き交渉を要する
古い建物を取り壊して建物を建築するときは、借家人との立退き交渉が欠かせません。また、第三者への譲渡時にも借家人がいる状態では売却価格は著しく減額されたものになります。なお立退き交渉の難易度は借家人の属性に強く左右され、高齢者や生活困難者の場合は難航しがちです。また立退き料が必要となりますが、少なくとも賃料の10か月分から15か月分を要することもあります。
譲渡時には承諾料が必要である
将来、借地を第三者に譲渡するときにも、地主の承諾に関する問題が生じます。多くの事例では承諾料として更地価格の10%ほどを必要とし、その承諾料相当が売買価格から差し引かれます。そもそもの問題として、土地を無償に近い形で返してほしいと思っている地主の承諾をスムーズに得られることは困難であると考えた方が良いでしょう。
第三者に譲渡しようとしても買主の発見が難しい
将来、アパート経営をやめて借地権付建物を売りたくなっても、買主を見つけるのは困難です。ここで言う問題とは、抵当権設定登記について地主の承諾を得られないなどの理由により、買主が必要とする融資が受けられないというものです。融資を受けられない場合、現金 一括払いでの購入を要請する必要がありますが、応じられる買主は限られます。
借地上でアパート経営するデメリット
借地上のアパート経営には複数の課題があります。そのひとつは、建物が古くなっても、借地契約の延長を敬遠する地主が承諾せず、建替えができない問題です。建物が古くなれば維持管理が難しくなり、メンテナンスの行き届かない建物では家賃を上げることができず、それゆえに収入が減る……といったデススパイラルに陥る可能性があります。
もうひとつは、売却したくなっても、地主の承諾の問題で買主を見つけられない可能性がある点です。こうした背景から、朽廃が進み経営難に陥っても出口にたどり着くことができず、赤字続きとなる恐れがあります。
まとめ
借地権を活用したアパート経営は、地主との良好な関係維持が不可欠であり、契約内容の理解と適切な実務対応が重要です。地主との信頼関係を築きながら、長期的な視点で経営を進めること、どこかのタイミングで出口を見つけることが成功のポイントと言えるでしょう。